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2016年1月31日日曜日

事前復興~大震災と都市計画~

災害対策として、事前復興の取組みがすすんでいます。
参考として下記の文章を掲載します。



大震災と都市計画
ー事前復興まちづくりと地域協働復興模擬訓練ー
佐藤 滋/早稲田大学理工学術院教授 都市・地域研究所所長

 「事前復興」という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。事前に災害に備えて復興都市計画を立てておくという意味がふつうの使い方であろう。私はこれに加えて「事前に、復興を進める。」と言う意味でも使っている。大震災で、近い将来壊滅的な被害に遭うのが分かっているなら、それを前提に、事前に復興まちづくりをはじめようと言うことだ。「事前に復興まちづくり計画をつくり、まちづくりを今から進める。」と言う意味で使っている。

 「災害にも遭ってもいないのに復興計画とはけしからん、被災が決まっているように勘違いされ、風評被害が出たりする。」と、かつてならこんなことを語るのさえタブーであった。しかし今は、東京はいつ直下地震に襲われてもおかしくない状況で、一緒に協働復興模擬訓練に取り組んでいる行政や危機感を持つ地域のリーダーは、復興計画を作成するだけでなく、それをなるべく早く実行に移し、もし被災しても、あらかじめ決めてある復興計画をもとに事前の復興まちづくりを連続していけばいい、そんな事前復興、連続復興こそ今取り組まなければならない、と言う理解である。

 地域ではどこが危ないか、老朽建物や細くて行き止まり道の多いいわゆる「木造密集市街地」、その中でも最も危険な場所を地域のリーダー達はよく知っているし、また、空き家やお年寄りが独りで住んでいるなどの情報もきちんとつかんでいる。そのような情報と物的なデータを合わせて、失火点を想定して延焼シミュレーションをして、それらをもとに仮の復興計画を協議会で作成する復興模擬訓練を進めている。新宿区と地区協議会・町会連合会、そして早稲田大学都市・地域研究所の8年にわたる共同の取り組みである。

 このような進め方は、首都直下地震を想定した東京都の地域復興マニュアルに書いてあるそのままである。被災した地域は、自ら復興協議会を立ち上げ、専門家や行政の手助けを得ながら、自ら復興計画を作成してそれを行政に提案をして、行政はそれを受けて様々な復興事業や補助事業を予算化して地域の復興まちづくりを支援する。これがマニュアルに示された「地域力を生かした復興まちづくり」の手順である。

 しかし、はじめ、住民はこれを説明されて唖然とする。「震災にあったら行政が計画をつくって復興してくれるんじゃないのか?」。地域の 細かい復興計画を行政が主導して地元の合意を得て作成するなどと言うことは、東北の被災地でなくてもできはしない。行政がつくるとなれば頼ってしまって、一部にはわがままも出てこよう。地域が自分たちで利害の調整も考えながら計画を提案する。このことは大変なことだ。しかし、コミュニティと生活・暮らしの基盤を一日も早く再生して、地域の生活文化を継承するためにはこのような方法しかない。

 そのためには、事前に復興まちづくりとは何か、どのような手順で、どのような方法で、体制で進めるのかを地域で共通理解する必要があるし、模擬的にそれを行ってみようと言うことになる。地域協働復興模擬訓練と呼んで、新宿区の10の協議会の内、6つめの柏木地区が現在訓練を進めている。すでに行った地区では、それをもとにした事前の復興計画をつくり、具体的なまちづくり活動に取り組んでいるところもある。落合第一地区の上落合地区では、震災時に大きな被害が予想される町会が連携して「まちづくり協議会」を結成し、専門家が支援して区長に提案書を提出し、区はこれを受けて共同で調査・計画策定に乗り出すことになっている。もちろん、被災を想定すればこのようなプロセスはもっと迅速に進まなければならないが、このような流れができていれば、たとえ被災をしても立ち上がりは早く、連続した活動で復興に取り組むことができる。ソフトも含めてまちづくり活動と考えれば、ここではすでに事前復興が始まっているのである。

 この事前復興は、住民や行政のためだけではない。実はまちづくりや建築の専門家も、実際にどのように復興まちづくりを進めるのか、あるいは住民組織と協働してまちづくり計画を作成するのか、そして事業はどう組み立てるのかなど、全く経験がない。実際に、模擬訓練を通して地域に入って協働して活動してこそ相互の信頼関係が生まれ、住民も専門家と行政とどのように連携してまちづくりを進めていくのかを理解するのである。地域には建築分野だけでなく、医療・福祉や消防団、民生委員など様々な専門家が活動している。これらとどのように共同して布陣を組むのか、事前に日常から連携活動を進めていなければいざというときに役に立たない。

 事前復興に協働で取り組むこと、それには全ての被災が予想される全ての地域で、まず模擬訓練からはじめよう。私が立ち上げた「日本建築学会まちづくり支援建築会議」、あるいは早稲田大学都市・地域研究所などは、そのような活動を支援する準備を整えて待っている。この活動は2012年に連続地震で大きな被害を受けたイタリア北部のエミリアロマーナ州フェラーラ市でも取り入れられ、早稲田大学と共同研究をしながら実際に同様なプログラムを進めている。言うまでもなく、このような活動は防災や復興だけでなく、高齢化が進むコミュニティでの福祉や健康などの全般的な課題にも対応するものなのである。

以下のWeb サイトを参照されたい。
http://www.satoh.arch.waseda.ac.jp/satoh_lab/modules/project/shinjuku.html

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